おいしい顔って…?

〜寵猫抄より ( お侍 拍手お礼の六十四 )
 


島谷せんせえのところの久蔵くんは、
世間様にはメインクーンの仔猫で通っているが、
家人である勘兵衛と七郎次には、五歳くらいの男の子に見えている。
五歳くらいだと思うのは、
背丈がそのくらいの大きさだったからであり。
少々覚束ないバランスながら、
たったかたったかと駆け出すことも出来れば、
一丁前に木登りも出来。
勘兵衛せんせえの長い御々脚へまとわりついて“抱っこ”のおねだりをしたり、
おっ母様のお膝にまたがっての ぎったんばっこん、
向かい合ったまま真っ直ぐ後ろざまに倒れ込みかかっては、
“おっとっと”と引き戻してもらう遊びが大好きだったり。
鈴を転がすようなという表現はここから来ているものかと思ったほど、
軽やかな甘いお声できゃらきゃらと笑う屈託ない無邪気さといい、
標準より上背のある男衆たちでもあるお二人からすれば、
ひょいと抱えられるお子様サイズの範疇内だったこともあり、
それはそれは無邪気な幼子でしかなかった久蔵だったものが、
子供は子供でも、
結構“お兄ちゃん”な側にもなり得る年頃でもあったのだなと。
そんな風に思ったのが、
もっと小さな存在が現れたからというのは…何だか即物的じゃああったけど。

 「にゃうみぃvv」
 「にーにvv」

朝のお目覚めののちの最初のお仕事として、
あちこちの窓を開けにと屋敷中を廻り、
子供たちの寝起きするリビングまでやって来れば。
金髪頭の早起き坊やが、
寸の足らない腕やあんよを 振り回すようにぱたぱたたと駆けて来て、
おはよーvvのハグにとぽーんと懐ろまで飛び込んで来るのは変わらぬが。
そんなおチビさんのそのまた足元を、
ちょろちょろちょろっと小刻みな歩調で追いかけて来ての、
“ボクもボクもvv”と鳴き方からしてまだまだ拙いお声を上げながら、
お兄ちゃんの真似っとばかりに、
駆け寄って来てくれる新しいおちびさんがまた可愛らしい。
久蔵の方は慣れたもの、最後の一歩で床を踏み切ってぽーんと、
それへと間合いを合わせて屈んだ七郎次の懐ろまでを、
えーいっとばかり、文字通りの“飛び込んで”来るのだが。

 「なぁうvv」

糸のようにか細い響きでの、
しかも棒読みに聞こえるほどの単調なお声なのは、
きっと人の赤ちゃんみたいにまだまだ意味さえ成さない声だからか。
小さな黒猫さんが、一丁前に飛び上がろうとして、だが、
実際はその場での“とんととん”という
小さな足踏みしか出来ていない様子がまた、

 “うあぁ〜〜〜。////////”

じだんだ踏んでるみたいなのに、
ご当人はその身を軽々跳ねさせているつもりらしく、
あれれぇ? なんで届かないのかにゃあと
かっくりこと小首を傾げたりされたら もうもうもうっ

 “か、可愛すぎる〜〜〜っ”と

子供らの前だからと、不審な態度はなるだけ頑張ってこらえているものの、
その胸の内にては、
声もないまま その場へうずくまっての、
床をだんだんだんとしゃにむに叩いている姿が

 “……目に見えるようだの。”

呆れを通り越し、そんな連れ合いの無邪気さもまた愛しいと、
こちらさんだって他愛なさではいい勝負な壮年殿が、
ご自分で門柱のところまで出てって取って来た新聞を片手に、
微笑ましいものよと口許をほころばせておいでだったりするのが、
このところの島田さんチの朝の風景なのである。

 「……みゃうにゃ?」
 「勘兵衛様、ご自分で束ねられたのですか?」
 「いいや、昨日から触っておらぬが。」

ちなみに……お互いに手短な言いようだが、
決して見当違いな会話じゃあないのは、お付き合いの長さの賜物。
原稿にかまけての、夜更かししたまま寝付かれたのか、
うなじで きゅうと縛って差し上げたはずの長い蓬髪が、
根元がちょみっと膨らみの、
斜め横へずれているのは……この場合は、ご愛嬌かな?(苦笑)




     ◇◇



おちびさんの方は まだまだミルクという時期なので、
テーブルへセットした幼児用のお椅子に座らせ、
はい・あ〜んで、アジの開きから玉子どんぶりにモンブランまで、
お箸や匙にて食べさせることの出来る久蔵のようには行かない。
最近は手慣れたもので、
勘兵衛が何とか、小さく掬ったり千切ったりしたご飯だおかずだを、
小さいお兄さんの口許まで運んでやってもおり、
七郎次おっ母様の自慢の卵焼き、あ〜んと開いたお口へぱっくり含むと、
小さなお手々で蓋をする仕草も相変わらずの久蔵の側は側で、

 「〜〜〜〜〜vv」

シチ母さんの手のひらの中に収まったまま、
仔猫用の哺乳瓶からミルクをもらっておいでの弟分へ、
ついつい目がゆき、時に自分のご飯が止まることもしばしば。

 「久蔵、ちゃんとお食べなさい。」
 「みゅうぅ。」

金の髪、ふるふると揺すぶってのかぶりを振る坊やへと、
食べ終えてからだったなら、
いくらでも眺めていられるのにねぇと苦笑をし。
時折、哺乳瓶やそれを支える自分の手の頬ぺたを、
小さなお手々でぎゅうぎゅう押して見せる黒猫さんへ目許を細めつつ。
気もそぞろな小さいお兄さんの様子も気にしぃしぃという、
前より忙しくなってる身を、
なのに嬉しそうに受け止めておいでのおっ母様ではあるけれど。

 「ほれ、お主も食わねばな。」
 「え? あ、えと、すす、すいません。/////////」

両手ふさがりの女房殿へは、
いつものお向かいではなくすぐ横手へ座っていた御亭様、
ご飯だ魚だ、箸にて運んでくださるフェイントを、
このところ やらかしてくださるものだから、

 “う〜ん。これはやっぱり早いトコ……。”

仔猫さんの身元が判らぬか、ではなくて、

 “離乳食へ進んでくれないかな。//////”

なんて、感じておいでのおっ母様だったりする辺り。
もうすっかりと、ウチの子感覚でおいでらしいです。(笑)

 「美味いか?」
 「〜〜〜〜はい、それはもう。////////」

  勘兵衛様、いつの間にか少しほど器用になられたようですね。
  何を言うか、上手に焼いてあるから身もほぐしやすいだけのこと。
  なんなぁんvv
  ほれ、久蔵も“そうだそうだ”と頷いておる。
  ああでも、ご自分もお食べになってくださいませよ?
  判っておる。ああほれ、ちびが もうよいと。
  みゃう・にぃvv


 どんな猛暑も何のその、
 相変わらず朝っぱらから、
 ほこほことお幸せなご一家であるらしいですよvv





   〜どさくさ・どっとはらい〜  2011.08.03.


  *拍手お礼に挙げちゃうと
   収納した時に話が風化しちゃってて
   良く判らなくなってるかもですが、
   あまりに短いネタものなので。

  *小さな黒猫さんへは色んな推理を寄せられてて、
   こちらも“ああそんな解釈もありか”なんて
   感心させられておりますが。
   黒いのということで、
   アレの化身だったらというお声はさすがにないですね。
   ちょっと安心。 ( つか、当たり前じゃ… )

  *小さな迷子の仔猫さん、
   どんどんと家族の一員になってく気配でございます。
   夜更にモノホンのお兄さんになった久蔵殿が、
   ひょいと抱えて隣町のお友達のところまで連れてくのも、
   もはや当たり前の習わしになってるようで。

   《 せめて口が回っておれば、どこから来たとか訊けようにの。》

  選りにも選って“父親ではないか疑惑”をかけられた誰か様も、
  一応は案じてくださってるようで。

   《 とはいえ。
     そやつが来てから、
     お主がその姿に戻る晩が増えてはないか?》

   《 ???》

  こっちの街では何か聞かぬかと積極的に訊きに来るところからして、
  このところの誰か様は 余裕で(?)サボっていたことでもあって。
  そっかなぁ?と小首を傾げる金髪痩躯のお兄さんへ、

   「なぁう・み?」

  真似っこのつもりか、
  赤い道着服のお膝に抱えられたまま、
  ひょこりと小首を傾げた坊やだったのへ、

   《 〜〜〜〜〜。///////》
   《 これこれ、抱きつぶす気か。》

  これでも“か〜わい〜いvv”という感情の下、
  ちっさな弟へ頬擦りしたおす大妖狩り様だったらしいです。

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